バレンタインだからチョコレートラーメン。護国寺MENSHO
えっ、チョコレートを使ってラーメンを!?
衝撃的なラーメンを食べたので記録。
護国寺の参道にあるMENSHOは、角ストレート細麺の自家製麺と醤油スープのラーメンがおいしいおしゃれな雰囲気のラーメン屋さん。
期間限定でいろいろなオリジナルラーメンの開発にも余念がないらしく、2月14日のバレンタインデーまでは“スパイスチョコラーメン”なる奇怪なメニューを登場させている。
ここの醤油ラーメンはまっとうにおいしく、それでいて都心の1階というテナント料が高い立地ににありながら面積を食う製麺機と製麺スペースを完備しているこだわりも光る、現代のラーメン店。
その信頼をもとにこのチョコレートラーメンを食べた。
いやもう、スペックからしてすごいのだけど、どんぶり一杯に一枚分の板チョコを使用しているのだという。
そしてスープには15種類のスパイスを使用しているのだという。
麺にはカカオ粉だかなんだかを練り込んでいるのだという。
お、おう。
しかもすごいのはこのチョコラーメンは14年目になるのだとか。
愛され続ける味なのだ。
マジか。
注文してから提供されるまでやたら時間がかかる。
その原因は中太縮れ麺の茹で時間が長いこともあるだろうし、ひょっとしたらスープを1杯ずつ作っているからかもしれない。まさかいまチョコレートを溶かし込んでいるのか……?
15分以上待った。
いよいよ届いた器はつばの広いフレンチのスープ皿が代用され、中央に麺とチョコレート色のスープ、玉ねぎと水菜、かぼちゃの薄切りを焼いたもの、低温調理の煮豚、フライドガーリックが載っている。
香りはカレーのようなスパイスの香りに、ほのかにチョコレートのカカオ臭が混ざる。
ううむ。
頼んでおいてなんだけど、これは、いわゆる、その、大丈夫なのか?
「あれだけうまい醤油ラーメンを作るラーメン屋だからオリジナルラーメンもまあうまいだろう」という思い込みひとつで注文してしまったけど、それは勇み足ではなかったか? 冷静に考えてチョコレートとラーメンは一緒にするべき食べ物か?
いろいろな思いが胸をめぐる。
しかし頼んでしまった以上、食べざるをえない。
ドロドロのスープをちょっと混ぜるようにして麺と絡ませてすする。
ずるり。
もちもちの中太縮れ麺にスパイス・チョコレート・ソースがよく絡む。
こっ、これは。
うまい!
……ような、そうでもないような……?
なんだろう。いや、うまい。いやいや、そうとも言い切れない。麺の茹で加減もいいし舌触りもなめらかで、スープ(ソース)ともマッチしている。けど「うまい!」と断言するにはややひるむ胸の奥のザワザワ感がある。チョコレートの味わいもしっかりありつつ、前面に来るのはスパイスの香りと刺激。考えてみればカカオだってスパイスみたいなものだし、スパイスとチョコレートは合わないことはないだろう。問題はそれとラーメンの組み合わせ。脳が混乱する。
脳内にある「ラーメンとはこういうものだ。そしてこれからラーメンを食べるのだ」と認識している脳と、口の中に運んで咀嚼している味わいの「おおん……?」という不思議な感情。これは、ラーメンなのか……ラーメン……ンンン?
いや、そもそもラーメンとはなんだろうか。ラーメンの定義とはなんだろうか。麺とスープを合わせればラーメンだろうか。ではうどんはラーメンか。いやうどんはラーメンではない。理由は和風だしだし麺がラーメンの麺ではないから。ではラーメンの麺を使っていれば世の中はすべてラーメンか。しかし冷やし中華はラーメンではない。冷やし中華だから。しかしザルラーメンは冷たいしつゆは和風だけどラーメンだ。では人生とは何か? 人間が歩んだ道のりが人生だ。人格を持った人工知能が行う計算式の過程は人生か? いや、しかし、だが、うう、ううう……
ハッ。意識を失うところだった。
ともかく人間をどこか思考の彼方へ連れ去っていく味がする。
決してまずいわけではない。スパイスの刺激の中にチョコレートの香り、濃厚な甘みが潜んでいる。味が濃い。コクがすごい。香りもすごい。しっかりと食べごたえもある。
スープも、スープと言うよりカレールーのとろみに近い。何よりスパイスが効いていて、食べているあいだは(おそらくチョコレートの甘味のせいもあって)気づかないけど、かなり辛い。いつもラーメンを食べるときお冷はそんなに飲まないんだけど、このラーメンは食中に1杯、食後に1杯の水を飲んだ。となりで食べていた人はハンカチで汗だくの顔を拭いていた。味について率直に表現すると「隠し味にチョコレートを入れて作るカレーのチョコレートをちょっと多く入れすぎた感じ」といったところ。麺を食べた後に小ライスを入れて食べたりするとおいしそう(しかし板チョコ1枚とラーメンとライスを組み合わせたときのカロリーは登山の補給食よりも無尽蔵だ)。
この甘辛い味わいは、中京地方名物の、コテコテに煮込んだ八丁味噌のモツ煮を思わせる。色も似てるし。ああいう感じのルーに中太縮れ麺を絡めて食べるラーメンです。
「けっきょく、うまいの? うまくないの?」ともし聞かれたら、「すごい」と答えるしかない。ふつう、ラーメンに板チョコ1枚溶かし込んだら全てが破綻するでしょ。とんでもない味になるはずでしょう。だけど、成立してるのよ。味としては。
おそらく発想の順番としては「もうすぐバレンタインデーか~。チョコレートを使った季節限定ラーメン作ってみるか!(約15年前に開発)」→「チョコレート入れると甘くなりすぎるな~スパイス入れるか!(15種類の調合)」→「辛くて甘いラーメンができた!(完成)」ってことなのかなと想像するんだけど、その手間というか、“チョコレートを1枚使っておいしいラーメンを作る”という縛りプレイをクリアーしているメニュー開発にかけた時間とか情熱を考えると、やっぱり「すごい」という感想になる。よく作ったなあ、こんなラーメン。何を……いったい……一体何を考えて……?
ラーメンを作ることが好きで好きで好きたまらない店主が生み出したのだろうなあ。仕事に情熱を傾けることがともすれば冷やかされてしまう昨今だから、その気持ちはとても尊重したい。
乙な味です。提供は2月14日まで。お近くの方は一度試してみては。