明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が面白かったことを書き付ける

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式サイト

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式サイト

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』公式サイト

 

アマプラで『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を観た。

当初2020年夏公開予定だったものが、コロナ感染拡大の影響で2021年6月11日と丸一年公開延期された末にようやく劇場にかかったもの。

「おもしろい」という評判は耳に入っていたけれど、コロナもあるし、そもそもが『ガンダム』に詳しくないので結局劇場に行かないままに終映してしまった。

それが早くもアマプラに入ったということでさっそく観てみた。

 

そして。

これが、まあ、期待に違わずというか、期待以上に面白かったのでそのことを書き留めておく。

下記はあくまでガンダムに詳しくない人が事前知識をさほど仕入れずに観た感想として読んでもらって、ガンダム的設定の誤謬は大目に見ていただきたい。

どのくらいの知識量かというと、アムロってのとシャアってのがいて、そのふたりはニュータイプでというくらいは知っている、まあ『アメトーークガンダム芸人回は観たくらいの知識だ。

 

あらすじとしては(『ガンダム』に詳しくないのと調べ直すのが面倒なので固有名詞等は極力使わずに書く)、地球に向かう宇宙船の中でハイジャックに遭遇する主人公ハサウェイだったが、ニュータイプ的な力(俺よりもさらに詳しくない人はまあ超能力のようなものだと思ってください)を使ってハイジャックを撃破し、船を奪還する。

その船には地球軍の大佐(山寺宏一)と、「パトロンがいる」と口さがなく囁かれる美女・ギギが乗り合わせていた。

ハイジャックを撃退した英雄として軍から事情を聴取されるとともに厚遇されるハサウェイはギギと同じ高級ホテルに(宿泊費は地球政府持ちで)宿泊する。

「同じ部屋に泊まろう」と腕を引くギギに押し負け、同室に泊まることになるキャスバル。美少女ギギはハサウェイにモーションをかける(古い表現)ものの、なにか暗い過去を思わせるハサウェイはこれを華麗にスルー。

一方、山寺宏一大佐もギギに気がある素振りを見せ、ハサウェイはそれはそれでモヤモヤする様子。煮え切らない男だ(このラブコメ要素もガンダム詳しくない勢にとって楽しめるところと思います)。

大佐「俺が先にギギをいただいても構わんな?(山寺宏一ボイス)」

ハサウェイ「お好きに……」。

さて、そのハサウェイ、じつは地球連邦と敵対するテロ組織の首魁でもあったのだった(この辺設定がよくわからんけどリーダーかそれに限りなく近い存在)。

そして、美少女ギギはハサウェイと同じニュータイプのようで、他人の嘘を判別することができる。ハサウェイとの短い会話で、ハサウェイがなにがしかテロ組織に関わりがあることを見抜いたようだ。

ハサウェイはホテルを抜け出し、注意深くテロ仲間と連絡を取る。自らのホテルを攻撃させ、ハサウェイはその隙に軍の管理下から逃げ出す作戦だ(?)。

いざ攻撃が開始され、ハサウェイはギギとともに逃げ出す。

ギギは初めて遭遇する戦闘にすっかり萎縮し、泣き出しながらハサウェイにしがみつく。冷たくあしらっていたギギに対して情が湧いた様子のハサウェイ。躊躇しつつも、泣きじゃくるギギを抱き寄せる。

そこへ駆けつける山寺宏一大佐。

「大佐ァ!」。

駆け寄って大佐に抱きつくギギ。

おいお前。

大佐の指示で安全なところ(軍のバン?)に移動させられたギギとハサウェイ。あれだけ泣いていたギギは、もう平気な顔をして、あたたかなコーヒーを飲んでいる。

ギギ「飲む?」

うなずいたハサウェイにカップを手渡す。

ハサウェイ「別の、かと思ったのに」

思春期並の気遣いを見せるハサウェイ。

この甘酸っぱいんだかなんだかわからんマクロスじみた三角関係ラブコメが本作の見所です。ギギかわいい。

一夜明けて。

ハサウェイは軍の事情聴取を終えて本来の目的地へ向かう。それは(作中ではあえて詳しく説明されていないんだけど)擬装して当初乗っていた地球への船に搭載されていた新型モビルスーツを回収するミッションへ向かうことだった。

海中からロケットが発射されハサウェイは宇宙へ向かう。ちょっと手間取ったがうまいこと回収。それに乗って戦闘。敵方は、テログループの味方を操縦席に人質として載せていたもののハサウェイの口車に乗せられて開放しハサウェイがうまいこと回収。その後再び戦闘。うまいことほぼ無傷で勝つ。地球軍方のパイロット「相討ちのはずだ」←現実は非情である。

 

というわけで感想。

おもしろかったのです。

ガンダム』作品って、その複雑な人間関係やらテーマ性やら膨大な設定やらのせいで、ガンダムの基礎知識がないと楽しめないのではないかという懸念があったんだけど、本作に限って言えばそういうこともなし。

むしろ(腐敗した)地球政府に対抗するテロ組織の若き長が、ひょんなこと(ハイジャック)から地球軍の大佐と謎の美少女と仲良くなっちゃって、自分には目的があるからこんなことにはかかずりあっちゃおれない(しかもひとりはいわば敵軍の大佐である)んだけど、ま、なんだか行きずり上、大佐はともかくこの美少女は見捨てておくわけにもいかんべえ……。という人物の配置がうまかったり、またその関係性を決して説明的でなく、観客を信頼して情報を断片的にして、「こういうことかな」と考えさせる演出だったり脚本が巧みである。

世界設定などの情報が断片的なのは、『ガンダム』マニアにとっては言わずともわかるという部分だから省略されているのかもしれないけど、その不足分がマニアでない観客にとっても効果的に活きるように情報が配置されていると言ってもいいと思われる。

物語冒頭から美女、ハイジャック、ガンアクション、飛び散る鮮血と観客を惹きつけて、その後に美女とのロマンス(大佐を含めた三角関係)、その合間合間に作品世界が抱える問題点の提示と理想主義者な主人公の思想と現実生活とのギャップを提示して大きなテーマを観客に想起させるといった飽きさせない構成になっている。物語上クライマックスとなるモビルスーツうしの戦闘シーンはむしろオマケ的で(もちろんそれだってハイクオリティーに出来上がっている)、その主題はむしろ人間ドラマにあると言い切ってもいい……いいかな。

ではそのハサウェイとギギ、山寺宏一大佐の人間ドラマはどこに決着するのかというと、ストーリー的にはまだ続きがあるようで、本作内では完結しない。

そこが映画作品としては物足りないと言うこともできなくはないが、まあ、それこそ桑育はないけどこのハサウェイという主人公は『ガンダム』的には結末が決まっているキャラクターだそうなので、仕方がないことなのかもしれない。

脚本と演出の妙、バカにするなという意味で「バカにする!」と叫ぶ冨野節っぽいセリフの応酬だったりと、ガンダムファンもそうでない人も楽しめる稀有なガンダム作品にしあがっているんじゃないかなと。ガンダムにそう詳しくない筆者は思ったのだった。

 

何より。

ギギがかわいい。映画の感想の半分くらいはこれに尽きる。

「20歳そこそこ」なのにパトロンがいる愛人業をやっていると言われる(実際やってる)美女で、その言動は何を言っているのかピントが合わず、でも勘がするどく(ニュータイプだしね)、自身が持つ美貌の価値を疑わず、男は自分が言えば何でも従うへつらうものだと信じ切って振る舞って、冷たい男には当て馬的にもうひとりと仲がいい様子を見せつける駆け引きを行う腹黒さがあって、それでいて、というか、だからこそ逆に天真爛漫さを感じさせる嫌味がないキャラクターがとてもいいし、上田麗奈の声も非常に合っている。

 

あと、澤野弘之の音楽とリアル寄りの背景が本作に映画的深みというか、ともすれば子ども向けと受け取られてしまうロボットアニメに、大人っぽさを加えている。壮大さを感じさせるテーマ曲を始めとして、ドキドキさせるシーンでドキドキさせて、高揚させるシーンで観客を高揚させるのは、音楽の力が大きい。極端に言えば音楽さえ聴いていれば観客はこのシーンでどのような感情になればいいか理解できる。ガンダム的設定やキャラクターの思惑が理解できずとも、音楽とともに自然に感情を上下させていれば、この映画を十分に楽しむことができる。

音楽というのは非言語のものだけど、そのシーンを言葉以上に雄弁に説明している。しかもそれが前に出過ぎることはない。ギターもピアノもボーカルも電子楽器の音色も使いこなしつつそのシーンの色を引き出している。当代随一の劇伴作家と評されるのもむべなるかなである。

 

というわけで最後にまとめておくと、本作は「ガンダムを知っていればなおさらのこと、知らなくてもかわいいギギにハサウェイとともに観客も翻弄される男女の三角関係ラブコメが楽しめて、スリリングなアクションシーンやもちろんモビルスーツの派手な戦闘シーンがあり、全編を通じて退屈でない巧妙な脚本と演出があり、高品質の作画と音楽がそれを支えている作品」ということになる。ちと長いスネ。