明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『鈴木先生』6巻

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「こんな状況をはたで見てると…議長の血が騒いで耐えられないんだ!! ただそれだけなんだ!!」
クラス議長・竹地のセリフ。

熱血迷走系中学教師漫画『鈴木先生』の6巻が出ていたので買う。
前回、恋人とできちゃった結婚をすることになってしまった鈴木先生
そして、ひょんなことからそれが生徒にバレてしまった鈴木先生
自分たちの先生ができちゃった結婚をするということにショックを受ける生徒たち。

というわけで今回は、
鈴木先生が自ら担任する2-Aの生徒たちに、
「教師の身でありながらでき婚をする鈴木先生は悪か否か」
という「クラス討議(≒学級裁判)」にかけられる話。
先生が吊るしあげられるわけです。


当然クラスは紛糾し、
議長すら決まらないありさま。
そこで冒頭の竹地が自ら立候補したわけです。
(この竹地、別の事件でとことん醜態をさらしてクラスの信頼を失っていた)

できちゃった結婚」は悪いことなの?
どうして先生はそんな事をしたの?
結婚する前にセックスをしたから悪いの?
中学教師だから悪いの? 一般人なら許されるの? 私の両親はデキ婚だけど? 
子供を育てられないような状況で子供を作ることが悪いの? 私の親はシングルマザーだけど?
未婚の大人同士が避妊をしないでセックスをするならば、
私たちが学校で避妊の授業を受ける意味って何!?

…などなど、生徒たちが「できちゃった結婚」についてひたすら熱く討論しあうわけです。
おかしいな、全然おもしろそうに見えないな…。

いやっ!
本当はこの漫画がスゲー面白いですよということをお伝えしたいのだけれども、
おれのつたない言葉だけではお伝えしきれません…(ライター失格発言)。

NHKで昔やっていた「真剣10代しゃべり場」をほうふつとさせる巻です。


表紙の画像を見ていただければわかるように、
いまどきこの線の書き込みよう。
まるでこれから人を殺すかのような迫力でじっと前を見据えているでしょう。
これが主人公の鈴木先生です。
この真面目ぶった先生がなんだかいろいろと悩み迷いながらも、
堅い信念をもって生徒たちに鈴木式体当たり教育を施していくのが主な内容になります。
そのネーム(フキダシ文字)の多いこと多いこと。

ぱっ、
とページを見たら7割くらいはネームが書いてある印象。
その過剰な書き込みと熱量でもって、
先生がつるし上げられたり生徒同士の諍いがあったり冷やかされて怒ったり、
同意があったり前向きな意見で空気が良くなったり、
空気を読まない発言で討議がストップしてしまったり、
波乱万丈なクラス討議になるんです。

その様子が実に面白い。

みんなとことん真面目なのに、
冒頭みたいなわけわからんセリフがあったり、
「ここは笑うところなのか!?」
と半分冷や冷やしながらも、爆笑してしまうわけです。


鈴木先生
「クソもミソも一緒にする人間が、俺の行為も許されると知ったら、
 なんだ、クソをやってもいいんだ、許されるんだ! と思ってしまう…
 そうしたら世界はどうなる…?」

生徒
「! ウ、ウンコだらけになる…」

鈴木先生
「そうだ…」


二人とも至極マジメな表情で語りあっているんです。
しかしそれでもそのあとに、

別の生徒
「私たちの税金で食べといて…何が普通よ! よくもしゃあしゃあと言えますよね!
 自分はミソ!? 先生のやったことはどう見てもクソよ クソ!」

と言われてしまう。
またそのコマには、興奮した生徒の顔が、
輪郭が映らないほどに、目と鼻と口と鼻息しか映らないほどのドアップで描かれているんです。
ここでも笑いが止まらない。


(感覚としては、
劇画『巨人の星』で、主人公の星飛雄馬がクリスマスパーティを企画するも、
誘った全員に断られてしまい、一人さみしく巨大なクリスマスケーキの前でパーティ帽をかぶる…
というときに湧き起こる、かみ殺したくなるような笑いの感じです)
(このくだりがわからない方は↓をご参照ください)
http://keitee.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_3401.html


本人たちはひたすら真面目で必死なんだけど、
やはり他者の冷静な目で見ると、どうしても笑いを禁じえない。
そういう類の笑い方ができます。

もちろん、
ひどく真剣な雰囲気の中で話し合われる内容も示唆に富んでいて、
大人が読んで面白いものになっています。
できちゃった結婚は悪か?」
ということは、(俺は)これまで考えたこともなかったけれど、
1回くらいはきちんと考えておいてもいいことではないでしょうか。

そういった、
現実でも1度は深く考えられてもいいような難しい問題を議題にして、
この情念というか、怨念までこもっていそうな絵でもって、
先生と生徒たちの生々しい討論がひたすら描かれるわけです。
その生々しさといったら、
特筆すべきものですよ。

人を切れば血が出るように、
薄皮一枚めくった下の人間性の発露というか、
若々しい主張のぶつかり合いがあるわけです。

人間の描き方というか描かれ方というかが、
夏目漱石が『明暗』で言っていたような、
「人間、またその生活というものは、一見平穏無事に見えるが、
その薄皮を一枚剥いだら、とても見られたものじゃない、グロテスクで、緊迫した、
生と死のやり取りのような腹の探り合いが繰り広げられている」
というようなものが描かれている漫画だと思います。

昔の船員は船のことを「船板一枚下は地獄」というような表現で死の近さを表しましたが、
それは船だけに限らず、
この日常生活でも、一枚めくればものすごい世界が潜んでいるのではないか、
というようなことをこの6巻を見て思いました。

漫画表現に、まったく限界というものはないのではないかと思わせられる。
そんな一冊です。


面白い漫画なのでお勧めしたいが、
誰がどう考えても万人向けの漫画ではないのであまりオススメはできない>『鈴木先生
6巻の帯には「マスメディアがほっておかない面白さ!」というコピーが付いてますが、
ドラマ化は難しいかもねぇ…。
面白いんだけどねぇ…。
「中学生」と「性」という非常にデリケートな問題が描かれてますので…。

でも万が一ドラマ化されるなら、
主人公の鈴木先生は誰だろう。
深く考えて、自分の強い考えを持っているというキャラクタから言えば、
劇団ひとりとかでもいいのかもしれないけど…
もうちょっと涼しい顔の人がいいなぁ…特に思いつかないけど…。

同僚の体育教師・山崎先生(風俗好き。それが昂じて免職)はガレッジセールのゴリがいい。