明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『銭ゲバ』原作読んできた

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画像は江戸川橋にある「現代マンガ図書館」。
「現代」とはいうものの、蔵書は昭和のマンガが主なようです。
http://www.naiki-collection.jp/現代マンガ図書館

中に入ると思ったより狭い室内に、
壁中の本棚と、本棚に入りきらないマンガ単行本や雑誌がずらり。
一日の入館料300円+単行本閲覧料を一冊につき100円を払うシステム。
銭ゲバ』は全四巻なので300+400で、700円かかりました。

壁には手塚治虫(!)を筆頭にいろんな漫画家の直筆サインが飾られています。
現代の有名どころでは、
弘兼憲史とかひぐちアサさんのサインもありました。
おおきく振りかぶって』の主人公・三橋のイラスト入り。
この輝くような直筆サインたちだけでも一財産ズラ…。


と、すぐにお金のことを考えてしまうのは、
そこで読んできた漫画のせい。
昨日始まったドラマ『銭ゲバ』(主演・松山ケンイチ)が面白かったので、
原作漫画を読んできました。
かなり古い作品なのでそんじょそこらの漫画喫茶には無いと思います。

それでその感想を書いたら、
引用のせいなどもあり思ったより長文になってしまったので、
読む場合、
5~10分を失う覚悟をしてから読んでくださいね。
いや本当はもっと短くまとめられればよかったのだけど…。
ごめんなさい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%AD%E3%82%B2%E3%83%90
ウィキペディア銭ゲバ
1970~71年(昭和45年~46年)に、週刊少年サンデーに連載されたジョージ秋山の漫画。
ほとんど40年前のマンガですね。

原作はこんな書き出しで始まります。


  金っ! 金っ! 金っ! 金っ!

  いったい金とはなにか? 

  金は あるときにはどんな欲望も満たしてくれる。

  あるときには 人をどれいにし

  またあるときには 人の心を狂わし 滅亡の悪をうむ!

  「銭や!」

  「銭のためにやったズラ!」


…この「やった」というのは漢字で書けば「殺った」であり、
何かとお世話をしてくれていた近所のお兄ちゃんをスコップで撲殺したという意味です。

「いったい金とはなにか?」

主人公は「銭=力」と信じ、
金さえあれば自分は幸せになれるのだ、
幸せなのだ、
と思って悪事の限りを尽くして銭を手に入れるのだけど…。

という内容のマンガでした。
その意味ではこの書き出しの言葉は、
作品のテーマを的確に言い表していて、
憲法全体に対する憲法前文というような感じの、
象徴的な文章になっております。

どんな漫画かというと、
まぁ一言でいって、とんでもないマンガです。

主人公・蒲郡風太郎は、
金のために人を殺したり資産家の婿になったりその家を乗っ取ったり、
公害垂れ流しにしたり実の息子を…したりもう、
大変な悪党なんです。
大悪党。
なんのためにそんな悪いことをしていたかといえば、

「銭のためにやったズラ!」

…。
これをよく少年誌で連載してたよなー。
ジョージ秋山こええー。
昔のサンデーこええー。
昭和こええー。

そしてそれをこの現代に、
果敢にドラマ化した日テレGJ。
1話目がなかなかショッキングな感じだったので、
おそらくPTA的なところから抗議の電話も行くでしょう。
抗議にへこたれず、
出来るかぎり原作のテイストを再現していただきたい。
それはテレビドラマが、
どれだけ社会への主張ができる媒体・表現方法であるかという、
一種の実験というか、試金石というか、
ベンチマークテストのようなものにもなるでしょう。

作品の連載が開始された1970年、
日本は高度経済成長華やかなりし頃。
あの大阪万博が盛大に開催された年でもあります。

そんな時代に
「世の中銭ズラ!」
といって、銭のためなら悪逆非道をつくして気にしない主人公を考えつき、
世に出すジョージ秋山。と週刊少年サンデー
すげえー。
ジョージ秋山は同時期に『アシュラ』というマンガを、週刊少年マガジンに連載していて、
こっちは人肉食の描写などもあり、一部地域で有害指定図書を受けたり、
掲載号のマガジンの回収騒ぎを起こしたりしています。
マガジンもこええー。
サンデーもマガジンも、昔は気骨あふれる雑誌だったんだなあ…。
昭和すげえー)


しかし主人公は本当にゼニカネだけを求めて生きていたのか?
このマンガは現金至上主義、現金崇拝主義を唱える作品なのか?

作品の途中に、こういう問答をするシーンがあります。
(主→主人公・蒲郡


  主「…だから愛なんて求めんズラ。この世では銭が全てズラ」

  「そういえないこともありませんがね。銭だけじゃどうしようもねえもんだってありますぜ」

  主「なにがあるズラ!」

  「ちょっとキザですがね。心ですよ 心!!」

  主「そういうおまえは銭がないために奥さんと子供を捨てたんじゃなかったのか?

  いくら嫁と子供を愛していても銭がないために離れなくちゃならなかったズラ」

  「そりゃあまあそうですがね。でもなにもかもそう銭 銭じゃ

  さびしくなっちまいますよ。あんたには愛する人はいねえんですかい?

  人を愛しようとはおもわねえんですかい?」

  主「思うズラ!」

  「へへーっ こいつは驚きだ!」

  主「わたしは美しいものがすきズラ。美しい人の心がほしいズラ。」

  「へっ」

  主「だけど ひとの心が美しいとは思わんズラ。この世に真実というものがあれば…

  命をかけておいもとめるズラ。人間はみんなきたなくいやしいもんズラ。」

  「よくそういうことがいえるね まったく!! 世間じゃあんたのことを

  なんといっとるかしってますかい? 銭ゲバ だってよ」

  主「フン なんていおうが わたしはへいきズラ。銭ゲバはわたしだけじゃないズラ!

  どいつもこいつもきれいなことをぬかしているが みんな

  銭ゲバ ズラ!」


主人公の蒲郡は、
「美しい人の心」を求めながらも、
ついにそれを見つけられない。

主人公の蒲郡は、
「世の中銭ズラ、銭でなびかない女は、人間はおらんズラ」
と言い、行動し、生きてきた。
しかし「美しいひとの心」を諦めきれずに、
探しては、ついに見つけたと思っては、それを失って、
人間と社会と自分の人生に絶望して死ぬ。

作者は、
主人公には口では
「ままよ 世の中銭ズラよ」
といわせながらも、
逆説的にそうではないことを伝えたかったのではないか。
「美しいもの」
を探し求める人が行き着くところが、
人間の心ではなく、
「お金」
というものへ行き着いてしまう社会のありようのおかしさを言いたかったのではないか。

色々とショッキングな内容で、
ストーリー展開も速すぎてとても詳述は出来ないのですが、
作品のテーマというか、
その作品の意図するところは、
やはり拝金主義の否定だろうとおもうのです。


作品は、最後にこんな見開きで幕を閉じます。

  そうだ

  てめえたちゃあ

  みんな

  銭ゲバと同じだ


  もっとくさってるかもしれねえな

  それを証拠にゃ

  いけしゃあしゃあと

  いきてられるじゃねえか



100年に1度の金融危機と叫ばれ、
未曾有の恐慌が訪れないとも限らないこれからの時代、
何人が「銭ゲバ」に陥ることなく、
「うつくしいひとの心」
を保っていられるでしょうかね。
(「現代人はもうそれを失ってしまっているのだ!」という指摘・批判もこの作品のテーマでしょう)

だからこそ、
これを現代にドラマ化して地上波で流そうという日テレには、
賞賛と激励の声を送りたい。
ぜひ抗議の声に負けないで、
この過激で苛烈な作品を描ききり、
その作品が本来持つテーマを伝えていただきたい。


ちなみに、
この「銭ゲバ」という言葉は、
なんとこのマンガタイトルが初出なんだとか。
マンガのタイトルがこれだけ広く社会に使われているのは、
それだけ社会の一面を的確に抉り出していたということの傍証でもありましょう。
そういった意味でもこのマンガは、
文学的であり、文学作品と呼んでも差支えが無いように思います。

別に漫画図書館へ出かけなくても、
PC上の電子書籍でも読めたりします↓
http://www.ebookjapan.jp/shop/title.asp?titleid=4067
文庫版も売ってたりします。どちらもマンガ図書館よりはちょっと高いですけどね。
が、作中のいろんな、現在では問題のある表現がどうなっているかは知らんです。

公式サイトでは、
原作の蒲郡の顔をデザインした、ステキな壁紙が手に入ったりします。
http://www.ntv.co.jp/zenigeba/wallpaper/index.html

「人生にお金は必要だけど重要じゃないよね」
飲み屋で友達にそう言ったときには、怪訝な顔をされてしまいました。
まぁ酒の席だから何だってアリだ。

与太話は得意なんですブレンディ。
ドラマの方も引き続き見たい。