神宮球場のビールの売り子さんについて
試合開始、数十分前の神宮球場コンコースを歩いていたら、アイドルの控室に迷い込んだ。
もちろんそこは神宮球場なのだけど、ビールの売り子さんたちがずらっとならんで、これからの仕事の準備をしている時間がある。
目にも鮮やかな黄色い衣装を着込んだ売り子さんたちが狭い通路の左右の壁に張り付いて、センターからライト側へ歩いていきたい観客は、ひまわり畑の真ん中を通って行くような感覚に襲われてしまう。
彼女たちはそれぞれ仲のいい子同士で、ワイワイ、きゃあきゃあと、楽しそうに会話をしている。
なんと、眩しい場所か。
若さと明るさにあふれていて、その真ん中を通る僕は、思わず肩をすくめて、面映いような、気恥ずかしいような気持ちで歩いていった。
上の写真はその際、幸運にも首から下げていたカメラのことを思い出して、お願いして撮らせてもらったもの(撮影を快諾してくれてとてもうれしい)。
このとき、ぼくは彼女たちのことがいっぺんに好きになってしまった。
明るくて、快活で、仲間たちと仲よく、力を合わせて、働いている。
働く女性というのはうつくしいと思うし、楽しそうに労働する姿は、何より女性を魅力的に見せる瞬間だと思う。
まるでF1のピットワーク!神宮野球場が公開したビール売り子の裏側が凄い
(この写真は↑の記事内にあるもの。動画がすごいのでぜひ見てほしい)
上の記事によると、彼女たちが担いでいる満タンのビア樽は、12kgくらいあるという。
実際に測ってみるとわかるけど、荷物の重量が10kgを超えてくると、肩にずっしりと食い込む重たさで、立っているだけでも辛い。
そんな大荷物を持って、彼女たちは、すり鉢型になっている球場を左右に、そして上下に昇り降りして、ビールを注ぎ、手渡し、まったく肉体的労働の合間に、愛想よく笑顔を振りまいている。
なんて偉いんだ。なんと一生懸命なのだ。
根が怠け者の僕は、誰かが懸命に働いているところを見るだけで(それがとくに子どもやお年寄りだったりすると)、胸がグッとなって、尊敬の念すら抱いてしまう。
だから、ビールの売り子さんたちがコンコースでスタンバイしているその姿は、戦場に赴く前の戦士であり、舞台袖で円陣を組むアイドルたちであり、なぜかゾクゾクとして、胸が一杯になってしまう光景が、そこにあった。
(感情としては、『はじめてのおつかい』を見て感じるそれに近い)
ビールの売り子さん。
彼女たちは神宮球場の花だと、陳腐な例えで言うとしても。
それはただの花ではない。
額に汗して懸命に働く、働き者の花束である。
うつくしいのは働いているから。
彼女の美貌よりも、身から出た汗が、彼女たちに輝きを与えている。
けなげでうつくしく、可愛らしい。
(観客的には泣きたくなるようなひどい試合でも)悲壮感はなく、朗らかに笑って、ひととき客を和ませる。
かわいくて、けなげに懸命に働いていて、
しかも、ビールを売ってくれる!
本物のアイドルより、その点だけでもずっと魅力的だ。