明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『帝都物語』をめぐる40円の攻防と思考実験

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帝都物語』という小説があります。
作者はTVにもよく出る荒俣宏という人。
妖怪好きの気のいいおじさん。

昭和60年くらいの古い小説なのですが
近くの古本屋で1巻だけ買ったら面白かったので
続刊も買いに行ったんです。

運のいいことに105円コーナーで全部揃って
その店で続刊の8冊をすべて買ったんですね。

その「105円コーナー」の本棚の中には
同じ本でも105円の値札の貼ってあるのものと
100円の値札が貼ってあるものがあったんですね。

だからペラペラ表紙をめくって貼ってある値札をチェックして
100円の値札のものを選別してレジに持っていったんです。

8冊で800円だから、
1000円冊出してお釣りが200円だから、
帰りにコンビニでも寄って安い発泡酒かなんかチョコレートのお菓子でも買えるな、
嬉しいな…
って思いながら8冊と1000円札をレジに出したんです。

けどね、レジの人は
8冊で840円です
と言うわけ。

えっ

て思うじゃないですか。

いやいや、値札は全部100円ですよね?
あなたは一回全部それを見て確認してレジ打ってましたよね?

それがなんで840円になるんですかいやわかってるんですよ、
たぶんお店的に最低価格は105円で
105円コーナーにあるものは100円の値札が貼ってあってもそれは105円で
きっとその値札は前の古本屋にあったままか
お店のリニューアルか何かのときの
それ以前のままなんで
意味のない値札なんですよね? わかってますよ。

でも

でもね、

それじゃあいちいち全部の巻の表紙の折り返しの値札を確認して、
105円のものより小口が日に焼けたり頁が酸化している状態の悪いものでも

100円だからこっちのボロイ方がいいな!

と選んだ小市民の気持ちはどうなるのですか?
そもそも105円のものを「100円」て値札つけて売るのは不当表示じゃないのですか? 詐欺じゃないのですか?

「いやそれは105円コーナーの商品なので」って言うのかもしれないけど
100円の値札のままにして
それを剥がしたり値札を張り直さなかったのはお店の怠慢じゃないのですか?
お店の怠慢を消費者に押し付けるわけですか?
じゃあ極端に言えば値札が何円だろうが本棚の上に「ここは5万円コーナーです」って看板つけておけば
5万円で売れちゃうわけですか?

じゃあ値札はなんのためにあるんだ!
ブラックジャックの名ゼリフ 「医者はなんのためにあるんだ!」 のマネをしながら)


この間およそ1秒
想定外の事態、思考が電撃のように脳内を駆け巡ります。

値札にぃ~お前100円って書いてあんがに105円っちゃどういうことよダラぼちぇ

富山弁丸出しで激昂しようかとも思いましたが
いかんせん差額が40円。

40円ですよ。

元来、体と気の小さな私のことですから
わずか40円のことで

「え? これらの本は100円じゃないんですか? わざわざ100円の値札の貼ってあるものを選んで持ってきたんですが」

と聞くこともできず(そもそも5円安いものをチマチマ探して選んでいる時点で器の小ささが知れる)、
そう問いただしても上記のように

「あ~あそこにあるのは100円の値札のものでも105円なんですよ~。105円コーナーって書いてあるでしょ?」

と返されたらどうしようと思うし、
もしもそう言われたらやはりさらに納得がいかないので

「いやそれはおかしいでしょ。不当表示だ、詐欺だ、店の怠慢を消費者に押し付ける非常に不誠実な態度だ、なんだこの店は、どうなっているんだ、医者はどこだ、店長さん呼んでいただけますか?」

と言わざるをえなくなるなあ、
しかしそうまでして怒りのエネルギーを使って店側に非があることを滔滔と説明して得られるのは

40円

ううむそれじゃあなあ…。
そもそも40円のことで大の大人がどうこう言うのはなぁ…。
ケチンボって思われたら恥ずかしいし…。一緒に帰って噂とかされると恥ずかしいし…。
言うべきか、言わざるべきか、それが問題だ。

ハムレットを引用してまで思考を巡らせることさらに1秒半

そうこうしているうちに店員はさっと右手を伸ばし

「じゃあ1000円からのお預かりで160円のお釣りになりまーす」

素早く会計を済ませてしまったのだった。


ちょっ。

待ってくださいよ。
わかってくださいよなにか言いたそうにしていると。
気づいてくださいよ困惑した顔色に。
ねえ。
ねえってば。

などと心の中で懇願している間にさっさと渡される160円。
ええ…。

こうなってしまってはもはや声を上げるタイミングを完全に失ってしまっておりどうしようもできない。
8冊の本となんだかモヤモヤした気持ちを抱えたまま店を出る羽目になってしまったのだった。

しかし今思えばあの店員はなにも考えなかったのではなく
差額について不満をもった客と
さらにそれを言おうか言うまいか迷っている俺とその内心をすべて見透かした上で
最も適した選択肢「さっさとお釣り160円を渡して有無を言わせず帰らせる
という選択を取ったのではないだろうか。

だとすればあの店員はかなりのやり手である。

そして俺はもやもやした空虚感(およそ40円分の空虚)を持ち帰路についたのでした。
ブログのネタにすることで40円分の元を取ろうと決心を固めて。

買った分の『帝都物語』はまだ読んでいません。