増田俊也『七帝柔道記』読んだ
画像は増田俊也『七帝柔道記』(角川書店)。
読みました。
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』の著者による自伝的小説というか。
主人公である“私”が北海道大学柔道部に入り
キツイ練習に耐えながら「七帝柔道」(高専柔道をルーツにする寝技主体の特殊な柔道)に
のめり込んでいく様子がリアリティある熱気溢れる筆致で描かれています。
自身の経験を元に書いているだけあって
その文章は柔道場にこもる熱や、選手たちの体温や、汗臭さまで立ち上がってくるような
臨場感に満ち満ちています。
例えば入学して早速柔道部の見学に行くシーンなんかは
>その瞬間、湿度の高い空気が私の顔を覆った。
>広い道場で、まばらに数十人が寝技乱取りをしていた。
>畳の上でごろごろと組み合うそれぞれの体から、大量の湯気がもうもうと上がっていた。
>汗だった。
>立ち技のように畳に叩きつけられる音もなく、ただ苦しそうな息づかいと呻き声だけが聞こえる。
>これほど殺伐とした光景を見たのは初めてだった。
>入部はやはり明日にしよう…
>汗だった。
>立ち技のように畳に叩きつけられる音もなく、ただ苦しそうな息づかいと呻き声だけが聞こえる。
>これほど殺伐とした光景を見たのは初めてだった。
>入部はやはり明日にしよう…
という。
うわあホントにやだ。
って思うような光景が目の前に浮かび上がってくるようです。
柔道の経験があるとその情景が実によく想像できるかと思われます。
特に
>入部はやはり明日にしよう…
って尻込みする気持ちがこう、すごくよくわかります。笑。
ともあれ入部した“私”は
大学近くの喫茶店で「クリあん(クリームあんみつ)」や
寿司屋で「松ジャン」、「梅ジャン」などの柔道部御用達の大盛りメニューを先輩からおごられたり
カンノヨウセイ(肝の養成?)という伝統的シゴキ(イビリ)メニューを行われたりしながら
柔道部になじんでいきます。
柔道の描写は特に寝技中心でこれは細かく描写すると文章にするのが大変に難しいのですが
試合の緊迫した雰囲気や負けた悔しさや練習相手にケチョンケチョンにされる惨めさなどが
とてもよく書かれています。
小林まことの漫画『柔道部物語』的な体育会リアリティというか
実際にそれを体験した人でしか書けないだろうなぁという
切実な表現力が文章中にいかんなく現れています。
読みながら何度も
自分が高校に柔道部だったことと
それの練習風景や部活が辛くて(よく)サボっていたこと
畳の臭いや寝技練習の苦しさ(と臭さ)、寒稽古合宿の起きるのが心底嫌だったことなど
部活にまつわるアレコレをよく思い出しました。
特にいい思い出もない部活でしたが、
思い出している間はなんだかニヤニヤしてしまったような気がしますね。
柔道やったことある人は絶対読んだら面白い!
学園祭で「焼きそば研究会」なるサークルをでっち上げて儲けたり
「柔道サークルYAWARA」や「ボディビル研究会」の偽ビラだけ作って
新入生をだまくらかして入部させたり
アホ楽しい大学生活のエッセンスもちりばめられています。
クサくて男ばっかりで辛くてヒドイ生活だったけど、やはりあれも青春だった。
小説は主人公が大学2年の夏で終わっているんだけど
続編は無いのかなー。
このあとどうなったんだろう。
柔道やってたことある人とか
漫画『柔道部物語』が好きな人にはオススメですよ!
[追記]
北海道大学柔道部のHPに続編的な内容の文章があったのでリンク