明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『うなぎ 人情小説集』と築地・川扇のうな茶漬け

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画像はこのまえ読んだ本『うなぎ』。
ジャケ買いです。
ジャケ買い

だってこんな表紙卑怯だろうよ!

うまそうだもん!
めっちゃ!
めっちゃうまそう!
うなぎ!うなぎのどんぶり!略してうな丼!

中身はごくまっとうな短編小説集です。
そのすべてが「うなぎ」にまつわる話で
舞台がうなぎ屋だったり、ある一晩に食べた忘れられないうな重の話だったり
うなぎを詠んだ短歌だったりと
よくもまあ、うなぎというキーワードだけで1冊の本ができあがるものだなあと感心します。

選者の浅田次郎(『鉄道員』とかの人ね)の前口上や
自衛隊を舞台にした『雪鰻』という作品も絶品で
そのほかにも高橋治、井伏鱒二(鱒なのに鰻)や林芙美子
吉行淳之介吉村昭といった、昭和の文壇を彩ったさまざまな人の、なんとも味わい深い「うなぎ話」が
綴られています。

その話はどれもなんというか、日本らしいというか
表題に「人情小説集」とある通り
人の情、情交を描いたしっとりとして心に染みる
湿度高めの小品ですね。

うなぎを食っておいしいなあ、というグルメエッセイ本ではなくて
中身はむしろきちんと人間の情や義理を描いている
なんというか、「古きよき」と言ってしまってもいいような
小説らしい小説の集まりです。

< うなぎ 人情小説集 - 筑摩書房 >

うなぎというのは不思議な生き物で、まだその生態のすべては解明されておらず
だいたいに淡水魚のようなフリをしているけれど幼体のころは海に出ているらしく
大きくなって日本の河に帰ってきたと思ったら
こんどは細長くて冷たくて暗い住処に潜んでじっとしていて
何を食っているのだか
つぶらな瞳を輝かせたまま小さな胸びれとえらをはたはたとさせていて
擬音をつけるとしたら「ぬぼーっ」という顔をして生きている。
という、ちょっと類型化しがたい生物です。

そして調理したときのその味わいもやはり格別で
これが、魚か。
と、ちょっと普段食べている魚と同じ魚類とは思われない
あぶらの甘さ、肉のやわらかさ、特に蒲焼きにして炙られたときの馥郁たる香ばしさ…。

例えば
「好きな魚料理は?」と問われた時に即座に「うなぎの蒲焼き」と答える人は少ないのではないか。
頭にふつう思い浮かぶのは刺身や煮付け、ちょっと気の利いた答えなら鯛の天ぷらやふぐちり…
なんてところが出そうなものですが
それらとはやはり一線を画す
あまりにうますぎて
「うなぎの蒲焼き」という答えはちょっと「魚料理」と別カテゴリーに脳内で仕分けされている。
別格なうまさ。

なにが言いたいかというと私はうなぎが大好きだということですね。
(しかし好きだからといっていつも食べられるようなものではないのですね)

そんなわけで、こんな表紙の本があったらつい買ってしまうのもしょうがないというもの。
もちろん、上に挙げた作家たちの小説集ですから中身も面白く読めました。

しかし…。

面白いのはいいですが
こんなもんを読まされた日には、うなぎが食べたくなって仕方がなくなる。
しかしそうそう食えやしない。
うなぎなんて、うなぎなんてものぁ…。

そうそう、食えや、しねえのさ…。


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ででどん。
ところがぎっちょん。

築地にあるこの「うな茶漬け」なら
1000円で食べられるのさーっ!

< 川扇 - 食べログ >

一見ただの海苔茶漬けにも見えなくもないのですが
この大量の海苔の下にうなぎが隠れているのです。
(それを写真に撮らなければ仕方ないんだけど
 そんなこと考える余裕もなくもう食べたくてしょうがないんだからしょうがない。
 この1枚だって早く食べたすぎるところをグッと我慢して撮影したのでやや手ブレしている)

ただしうなぎは4切れね。
4切れ。

その量は多いとは言えないのですが
ご飯の上にかける出汁はしっかりうまみのある出汁だし(だしだし)、
自家製っぽい漬物もついてくるし、それはそれでよいのです。

あと、うなぎ自体を備長炭で焼くことをこだわりとしているそうなので
少ないながらもしっかりとうなぎが香ばしさを主張して
思った以上の満足感があります。

なんか九州出身のおばあちゃんがやっていて
焼き方等は九州方式らしいです。
タレの味わいなどに違いがあるのかもわからないのですが
なにしろこちらはうなぎ小説を読みすぎてうなぎ渇望ハフハフ状態で
ンガッ、と食べてしまったので冷静に味を振り返ってみるということができない。
我を忘れて完食しました。

うなぎとは罪深い食べ物であるな。

席は狭いし少ないし(そして厨房はまさにウナギの寝床のように奥に長い)
俺のようなプアマンには行きやすいというお店ではないのですが
おばあちゃんのやっているお店、という独特の優しい雰囲気というか
気の張らない感じがあって(例えばスマホで撮影してもそんなに怒られなさそうな)
個人的には気に入りました。

また行きたい。

お金と気持ちに余裕があれば、うな丼(1900円)を食べたっていいんだ。
なにかヤケになることがあったら、うな重(3700円)を頼んだって、いいんだ…。