明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『城崎裁判』(作 万城目学)読んだ

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写真は『城崎裁判』という短編小説。
鹿男あをによし』や『偉大なる、しゅららぼん』などの万城目学の作になります。
題名が『逆転裁判』にすこし似ているね。

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出版というか販売は「本と温泉」というところ。
いいですね。
どちらも僕の愛してやまないものですから。

なにしろ「ああ、温泉にふやけるまで沈んで、涼しいタタミの上をゴロゴロとしながら、1週間くらい本やマンガを読みふけりたいなあ…」という欲望をここ10年間くらい持ち続けています。
いつかやってやろうと思う。

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さて、この本が変わっているのは、まずビニールに包まれているところ。
そしてそのビニールをはがすと、このようにタオル地のカバーに包まれているところ。

開くと…

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このようになります。
カッチリとした明朝体で『城崎裁判 万城目学』と書かれております。
つまり!
そう!
この『城崎裁判』は、タオル地のカバーに包まれた状態で売っている、温泉専用小説というわけなのです!

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工夫はカバーだけでなく、紙自体が「ストーンペーパー」という特殊な紙素材で印刷されているとのこと。

ストーンペーパーとは…

>原料に木材チップやケナフなどを一切使用せず、石から抽出した無機鉱物粉末から作られたストーン紙です。
>だから、ストーンペーパー製造時には貴重な森林を伐採する必要がありません。
>また、製造時に水を使用しない為、排水がまったく出ず「水質汚染」につながらないのも特長です。
>ストーンペーパーは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、カナダ、中国など48ヵ国以上で特許を取得しています。

のだそう。
ソースは
http://www.eco-mo.com/biz/stonepaper
(株式会社メディアワン)

へえええええ。
石で紙ができるなんて、すごい時代が来たものですねえ。
(ジャンケンのとき、ややっこしくなりそうだ)

そしてこのストーンペーパーを使い、佐城崎温泉を題材・舞台にした小説を制作、販売しているというわけ。
はああ〜。
いろいろ考えるものですねえ。

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中はこんな感じ。
地にクリーム色を敷いて、その上にグリーンでフォントを載せています。
文体も相まってオシャレで格調高い感じ。
かっこええ。

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ところどころ、デザインアートというか挿絵のイラストが入っているのもオシャレ。
小説に華を添えます。

物語の概要としては、とあることをきっかけにスランプに陥って執筆できなくなってしまった小説家が、先輩の作家と編集者に勧められるがままに城崎温泉に足を運び、志賀直哉『城崎にて』にまつわる不思議な事件…現象…「城崎裁判」に巻き込まれるという話。
(『城崎にて』は読んだことがないのですが、なんでもイモリに石をぶつけて殺してしまうシーンがあるそうで、そのエピソードがこの『城崎裁判』でも重要な役割を担います)

現代文学らしい幻想小説というか、「裁判」をモチーフにしているのは、罪のない一般人がなぜか裁判に掛けられて不条理な結末を迎えるカフカの『審判』を想起させるし伝統的な不条理小説というか。

短いハナシなので、20〜30分程度で読み切ることかできると思います。

せっかくだからとある温泉の日帰り入浴に行き、真っ昼間から露天風呂で読みました。
夏の日差しは本を読むのに十分すぎるほど強くて、むしろ露天風呂にかかった屋根の陰で湯に浸かりながら読むと、なんだか久しぶりにきちんとした小説を読むなあという感慨とともに、なんとも…すごい…臨場感!

城崎温泉を舞台にした小説なので何度も入浴するシーンがでてきます。
風呂に入りながら風呂に入る小説を読む!
これはいわば4DX以上の臨場感とリアル感。たってリアルだもの。

むかし正月に帰省する際に、雪深い我が故郷…さらに言えば日本で一番雪深いといっても過言ではない越後湯沢のあたりで井上靖氷壁』を読んだことを思い出しました。
話のスジはきちんと覚えていないのですが、とにかく寒そうだった描写を覚えている…いや描写すら覚えていない…ただただ、最早「寒かった」と感じたような記憶のおぼろげがあります。

なんでもそもそもこの「本と温泉」という出版社(?)自体が城崎温泉のいわばピーアールをするために始められたプロジェクトということで、温泉で読むための小説ですから、それをそのとおり温泉で読むなら、それはもう、楽しい。

仕事と人生に行き詰まりを感じた中年男性が温泉で癒やされ謎の事件に巻き込まれ、不条理というか不思議な幻想によって《再生》する物語。

サクサク読めて、でも文学の味わいがあって、読後にスッキリと爽快感がある、短編小説らしい作品で、おもしろかったですよ。

ぜひ温泉につかりながらどうぞ。


ああ、温泉にふやけるまで沈んで、涼しいタタミの上をゴロゴロとしながら、1週間くらい本やマンガを読みふけりたいなあ…。