明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

映画『おおかみこどもの雨と雪』感想

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画像は『おおかみこどもの雨と雪』公式HPから

おおかみこどもの雨と雪』っていう映画を見に行ったんですよね先週。
公開日に見に行ったんですけど体力と体力と時間がなくて感想を書けなかったんですけど
せっかくなので書いておきます。

まずは3行で概要を。

●概要

時をかける少女』、『サマーウォーズ』に続く細田守監督独立後の第3作。
主人公・ハナは狼男の末裔の子・アメとユキを産みます。
父(夫)を亡くし失意のハナは、夫の故郷に移り住み、慣れない畑仕事なんかをしながらアメとユキを育てます。
田舎のシングルマザー細腕子育て奮闘記。

4行になっちった。


●感想

あのー
映画を見ながらこの3つは書こうと思ったことがありまして、それは

・背景がすげえきれえ
・音楽がすげえいい
・好みで言えば『サマーウォーズ』の方が好き

ということです。
それぞれについて思ったことなどを書いていきますと…

まず冒頭のシーンで驚くのが、
ああええと、以下必然的にネタバレを含んでいきますので
未見の方はご了承の上自己責任で
お読みください。

北日本新聞のコラム『天地人』で公開日前に映画の重要な部分のネタバレを食らって
糞ボケが何考えとるんじゃドアホと思ったこともありました。
映画公開日より前にその内容を明かしてしまうことを書くなんてのはありえませんよ。

普通公開日前ならそういったことは一切書かない。
公開後に書くとしても、内容を書くときには細心の注意を以て書くのが最低限のマナーでしょう。

どうせ新聞社の50オーバーのオッサンが書いてるんだろうから
そういった「ネタバレ」という概念や言葉があることすら知らないんでしょう。
そんなことでは潰れてしまうど北日本新聞。


●その1。背景。

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冒頭のシーンの花畑がすごいきれい。
写真を取り込んでCG処理したのかと思ってしまうような美麗な背景の場面から始まります。
しかもそれがCGや加工ではなく、全て手書きで描かれているのだとか。

時をかける少女』の坂道や夏の入道雲
サマーウォーズ』の座敷と田舎の風景などでも背景の美しさは評判になっていましたが、
今作ではさらにそれが際立っていたように思います。
(『時かけ』の背景を描いた山本二三という人の展覧会が高岡市美術館で始まっているのでいきたい)

それは舞台が監督の故郷である富山県上市町(付近)で
背景をより具体的にイメージしやすかったということもあるでしょうし
なによりもともとど田舎で風景はきれいなところですからね。特に立山やなんかまでいくとね。

背景の綺麗さに定評があるといえば
富山県のアニメ制作スタジオ「ピーエーワークス」もそうなのですが
背景がキレイだと画面に説得力が生まれるんですよね。

無意識レベルで受ける印象がより実写的になるというか。
物語の軸をなしているのが
「本当に狼男がいたら、さらにそれに子供や家族がいたら、どういうふうに子育てするんだろう」
という大きなフィクションなのですが
背景美術の美しさによってそのフィクションを補完するというか
フィクションなのにリアリティを持たせることができています。

畑や田んぼのそばの側溝の上に
かげろうのように飛んでいる小さい羽虫たち(田舎住まいならおなじみのアレ)を
きちんと描いたアニメは(たぶん)史上初!

映像的には『時をかける少女』や『サマーウォーズ』のような
特に白を基調としたCGを駆使した3D空間というのはないのですが
丁寧に描かれた自然と、その美しさを表現しているシーンがよくあります。

いやホント立山観光協会のイメージビデオかというくらいにね、カルデラ湖とか。
なんなら雪の大谷も出てきそうな勢いでしたですよ。

映画館のスクリーンに引き伸ばして見ても美しいと感じるリッチな背景美術は
それだけで一見の価値ありですね。


●その2。音楽。

なんかしらんけど音楽がすごくいいです。
ぶっちゃけ音楽に関しては門外漢で、デキ、不出来をあれこれ言えるほど素養もないのですが
別にどうという程のことがない場面でもなぜか胸に迫ってきたり、涙ぐんだりしてしまったのは
音楽の力がかなり大きかったからだと思います。
(もちろんクライマックスではクライマックス級にこみ上げてきます)

門外漢なのであのー…具体的にどこがどうよかった、ということは言えないのですが…
よかった。


●その3。前作『サマーウォーズ』について。

映画を見たあとに本屋に立ち寄ったらちょうど『SWITCH』という雑誌が
『おおかみこども』の特集をやっていまして、その中に細田監督のインタビューもあったのですが、いわく

「前作『サマーウォーズ』が親戚が大勢群れをなして出てくるわラブコメ要素もメインだわ
OZという異世界になる場所も作らないといけないし観客に理解させないといけないわ
日本が大混乱に陥って最終的には人工衛星が落ちてくるわで
サービスなんですけど、いろんな要素を詰め込みまくっちゃった。
なのでその反動というか、今回は登場人物も少なく、シンプルな話を作りたかったというか
そうなっちゃったというか」。

たしかにぐっとシンプルで「苦労をしながら子育てをする」という
一言で説明できるほどわかりやすいストーリーになっています
(『サマーウォーズ』を一言で説明しようとすると無理です)。

前作の『サマーウォーズ』という映画は
ストーリー的には東映時代の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』という映画の
作り直しというか焼き直しというかリバイバルというかセルフパロディというか
さらにその下敷きに『ウォーゲーム』という古いアメリカの映画もあったりしてややっこしいんですが
とにかく細田守監督の映画としては実はリメイクみたいな感じの映画になっていて
さらに『ぼくらのウォーゲーム』になかった特徴としての「OZ」の世界観も
村上隆とコラボして作ったルイヴィトンの広報映像↓



とかなり似ている部分があって
つまり『サマーウォーズ』という映画は
これまでの細田守監督の引き出しを全部開け放ったような、集大成といっていい映画だったわけです。

それで次の映画について「もう引き出しないじゃん…」と思っていて
この独立後3作目がある意味細田監督の真価を問われる作品になるのではないかと力んでいたのです。
勝手に。

ところが出てきたのは割とこう…力みのない「普通にいい話」。
3DCG空間とかリアルタイムで進行するような仕掛けとかそういう計画的につくり上げる技巧を廃した
普通にいい話と普通に良い映像と音楽と脚本の、つまり普通にいい映画を
シンプルなストーリーでサラリと出してしまっている。
それは肩すかしといえば肩すかしなのですが、それができるのはやはりすごい。
毒気を抜かれたようにもおもう。

なんというか、力みなく、技巧的な仕掛けもなしに、自然体で、普通に良い映画がつくれるんだなあと。

そういう印象を持ちました。
これからも楽しみですね。
インタビュー記事の中で「前の映画の反動で、次の映画がどんな映画になるか決まる」という言葉もあったので
次の映画は『おおかみこども』とは逆に
やたらわかりづらい芸術指向の変な映画になるという懸念もなきにしもあらずですが。笑。

で、まあこれはどちらがいい映画かということではなくて
子供の居ない20代男性の感想としては
『おおかみこども』より『サマーウォーズ』の方が感情移入もしやすいし好きだなあと。

あとはまぁ瑣末な感想をちょこちょこと。


●本当に家族向け映画かコレは?


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という疑問はやはり立ちまして。
宣伝やなんかではガンガン「家族の絆」云々を押し出して、
夏休みに家族で見られる映画、両親が小学生(以下)の子供を連れて見られるアニメ映画…
という売り方をしていますが。
実際には映画開始10分で「おおかみこども」ができる原因になる大沢たかおさん(声)の狼男との濡れ場も
きちんと描かれますし
その大沢たかおさんもえーと死ぬんですけど、なんともむごたらしい処理のされ方をしたり(正直グロい)。

実際に公開日の映画館には小さな子供のはしゃぐ声だったり
我慢できなくて「あーあー」とかいう嬌声が出ていたりしたんですけど
完全な子供向け映画というわけではないです。
家族客はそこのところはきちんと抑えておくべきかと思いました。

(でもまぁジブリも『トトロ』と『火垂るの墓』を同時上映していたわけだし、グロについては別にいいか…)


●『SWITCH』細田守監督インタビュー

記事の中で

「映画を見た記者や編集の方に『○○のところで泣いた』という言葉をよく頂いて
それはそれでありがたいのですが、その、泣くシーンというのが人によってバラバラ。
こちらとしては『ここで泣かせよう』という意図で作ってはないのでそうなるのも当然ではありますが
やはり観客は映画を見て泣いているのではなくて、映画を通してその人の人生を見ている。
その人の人生に泣いているのだと思います」

というところがあって、ああその通りかもしれないなあと思いました。


●「あいつにも自分の世界ができたんだ」 という(大沢たかおさんの)セリフ

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映画の中にそういうシーンがあるのですが
一昨年?の上市町の名誉町民表彰式細田監督が言っていた

「だから勉強はさせたほうが、将来子供のためにもなると思います。
でも、子供に明確にやりたいことがあるのであれば、それは反対しても無駄です(笑」

という「明確にやりたいことがある子供には、親はもう何を言っても無駄」という話を思い出しました。
アニメをやりたくて故郷を離れていった監督自身に通じるものがあるような気もします。

映画だけじゃなくて、講演(というほどのものでもありませんが)とかも聞いてその監督の作品を見ると
さらに一歩踏み入れた、人生観というようなものも垣間見えるようで、興味深い体験でした。


おわり。

あとまあ色々突っ込みどころというか「んーどうなんだそれ」って思うところもたくさんありますけどね。
まぁそういう疑問は意識して自分で抹殺したほうが映画を楽しめますので抹殺しました。
ていうかそもそも狼男とか居ないしね。

そこを自分で我慢できるならあとのことも見て見ぬふりできるはずだ!