明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

映画『風立ちぬ』見たので感想いろいろ

イメージ 1

画像はジブリ映画『風立ちぬ』公式サイトトップページ

見てきたのでね
簡単に感想を書きとどめておきます。

必然として作品についてのネタバレが含まれるかと思いますので
ご了承の上、よしなに。






●あらすじ

主人公は後にゼロ戦の設計者となる飛行機設計士・堀越二郎
昭和の小説家・堀辰雄自身のイメージと、彼の代表作『風立ちぬ』を下敷きにしながら
堀越二郎の少年時代から、青年になりヒロイン・菜穂子との恋、結婚、死別するまでを描く。


●感想


あのー、良かったです。
ハウル』とか『ポニョ』とか作ってないでさっさとこれを作るべきでしたよ宮崎駿

主人公の声が『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野監督であるとか
堀越二郎堀辰雄のどこからどこまでが実在したエピソードでどこがフィクションなんだとか
言うほどゼロ戦出てきてねーじゃねーかということとか
語るべき内容は色んな切り口であらゆることが考えられるのですが…。

まぁ、思いつくままにつらつらと駄文を連ねていこうかと。
友達と映画の感想喋るときみたいな感じで。





●映画のテーマについて、と、声優・庵野秀明について
ハウル』とか『ポニョ』とかよくわからない映画と違って
今作『風立ちぬ』は実在の人物をモチーフにしているからか筋もテーマもはっきりしていました。

「美しい飛行機を作りたいのです」。

こういう夢を持った青年・堀越二郎の姿を描きつつ
純愛であり悲恋であったその妻・菜穂子とのごく僅かな結婚生活を描きます。
堀越二郎の夢と愛。姫の犯した罪と罰
描かれているそのどちらも感動的で、胸を打ちます。

元々の雑誌連載(『モデルグラフィックス』という雑誌)のまんがでは
主人公・堀越二郎は豚の姿で描かれていたらしいですから
自身の自画像を豚の姿で描くことの多い宮崎監督がこの主人公をまんま自分であるように
自己投影して作ったキャラクターであるということは明白です

イメージ 2

(画像はこちらのニュースから)

思うに
宮崎駿監督が「美しい飛行機を作る」ことに殉じた昭和のエンジニア・堀越二郎の生き方を知り
そこにアニメ作りに殉じた自分を重ね感情移入し
同時代にあった小説『風立ちぬ』とそれを描いた堀辰雄のエピソードを混ぜ込むことで
作品のなかに「自分」と「ドラマ」が内包された映画ができるぞと確信して
この映画は作られたんじゃないかなーと。

公開のかなり前にジブリ鈴木Pが「宮崎駿の自伝的映画になる」と言っていたのも納得というか。

そしてそれを踏まえれば、主人公に庵野秀明監督をキャスティングするのも
自然に納得できるのではないでしょうか。

・アニメづくりに殉じた宮崎駿
・飛行機作りに殉じた堀越二郎
・アニメづくりに殉じている庵野秀明

この三者は、宮崎駿監督のなかで濃密にイコールでつながっています。おそらく。
全員が、自分の夢を現実のモノとすることに人生を懸けている。

まぁ、つながっているからといって、そのままそれをキャスティングしてしまうのは
芸がないというか、やや単純にすぎるきらいがないでもないですが。

なんつうのかな。
例えばモノマネ大会に、本人の真似をするモノマネ芸人じゃなくて
その人の子供とか双子の弟にモノマネさせるような安直さというか。
「そのままじゃねーかw」っていう半笑いツッコミは入れさせて欲しい感じというか。

声優・庵野秀明には個人的にはそんなに嫌悪感は生まれませんでした。
もちろんズブの素人と言っていいくらいなので、下手くそはドヘタクソなんですが
まぁ、やっぱりというか、当然、合ってるんですよね。キャラクターに。

要するにこう…
古いタイプのオタクで…
自分の好きなことにひたすら没頭していて…
ひとたび集中すると他人の声も耳に入らないようなヤツで…
それでいて“自分”というのはかなり強固に持っていて…
自分のやりたいことを、夢を実現することにただ純粋な男。

『ポニョ』のときのNHK『プロフェッショナル』で
「映画の奴隷になる」
という実に印象深い宮崎駿監督の言葉がありましたが
この堀越二郎も、
そして庵野秀明も自分の夢を現実にするために、自身を夢の奴隷にしている男です。

そういった点で宮崎駿は(作中の)堀越二郎にシンパシーを感じたのでしょうし
また、それくらいのことを庵野秀明にも感じていたのでしょう。

それは『ナウシカ』の巨神兵のシーンを庵野氏が作画したというエピソードを知っていても
そこまで買っていたのか! というか…

愛情ともまたちょっと角度が違うんですけど、
自身が自己投影した主人公の声を
キャラクター性が似ているからと言ってキャスティングしてしまうというのは
「お前は俺だ!」と言っているに等しいですよねこれは。

去年見た『特撮博物館』のなかで『巨神兵東京に現る』にまつわる展示品で
巨神兵の作画をする庵野がスタジオで寝ていて
寝ている庵野青年の足を描いた横に
庵野寝過ぎ!寝過ぎ!寝過ぎ!早く描け!ゴキブリに食われるぞ!」とか書いてある
宮崎駿監督が動画用紙に描いた落書きが展示されていて笑ったんですが
そういう、宮崎駿庵野秀明の師弟関係」という文脈から見ても
この映画には新たな面白みがあるんですよね。

それは映画の本筋からズレてはしまうんですが
そういうくだりを知っていて、宮崎駿がこの主人公をどういう風に描いているか考えれば
批判の多いこの「主人公・(CV)庵野秀明」にも納得ができるというか
そのキャスティングの意味合いを感じ取ることができるかと思います。

とにかく、そういう、純粋な男の人生を描いた映画であると。


●ヒロイン・菜穂子について
といって、やや強引に話を本筋に戻しますが。
このヒロインの菜穂子がねー…けなげですよ。

これまでのジブリヒロインのなかで最もけなげというか
かわいそうというか
弱々しいというか…。

結核ですからね
ジブリヒロインって基本強いじゃないですか、体が。心も。
ナウシカとか漫画版ではオーマ(巨神兵)の放射能的な毒に侵されながらも
結局最後まで色々とやりきるじゃないですか。
サンなんて絶対風邪とか引かないタイプじゃないですか。もののけ姫だし。

そういう、将来的にドーラになる系のヒロインとは一線を画した
「白いワンピースを着て麦わら帽子をかぶった病弱の美少女」なんですよ今回は!
しかしそれでいて内面はジブリヒロインらしい芯のある強さを持っていますからね。

二人が(おそらくふたりとも死期を悟っていて)結婚式を上げるシーンは感涙ものです。
ホントに。
ジブリらしくない病弱ヒロインでありながら
ジブリらしい(宮崎駿の想像上の)少女の純粋さを持ったヒロインです。


●疲れてきた
書くのが。


●面白かったのは“大人向け”だから?
鈴木Pが「次回の映画はこれで行こう」と言ったら
宮崎駿が「これでは子供向けの映画にならない!」と激怒したらしいんですが
結局は鈴木Pの説得に折れて、宮崎駿史上初の「大人向け映画」になったらしいです。

(これまでの作品でも『もののけ姫』とかはかなり対象年齢うえ目だったとおもいますけどねえ)

で、今作が近年の宮崎駿作品の中では
これが断然に面白く感じられたのは
そういう「対象年齢」が自分に合致していたというのも単純にあるだろうなあと。

もちろん優れた子供映画は大人が見てもきちんと伝わるし、面白いですし
優れた大人映画は子供が見てもわからないなりに何か胸に残るものがあると信じています。

ただまあ、それはそれとして。
やっぱり対象年齢が自分にあった映画の方が
見ていてすっと入って素直に楽しめる、というのは当然のことですからね。

そんなわけで「ジブリ? 結局子供向けでしょ」という大人にも今回はオススメできます。

でもラブシーンはありません。笑。
朝チュンです
おおかみこどもの雨と雪』以上の朝チュンです。
正確にはスズメも出てこないのでチュンがありません。
朝です。


ゼロ戦について
結局作中ではゼロ戦の設計をしているところが描かれないんですよね!
これはちょっとガッカリではありましたねー。
完成したゼロ戦自体は最後の方にチョロっと出てきて
それがまたやっぱり美しく飛ぶんですよ!
だからなおさらこれがガッツリ出てこないのが残念というか…。

ゼロ戦って本当に世界で一番美しい戦闘機だと思います。

その他の飛行機も実にジブリらしいというか宮崎駿らしいこだわりに満ちた飛び方で
特に中盤に出てくる紙飛行機なんかは、作為と自然の絶妙なバランスだと思いますよ。

あー、ああいうグライダーってこんな感じで飛ぶよなー。っていう。

そういう自然感があります。
でももちろんフィクションの動きは入れないと飛行機が演技してくれないので
当然全体としては嘘なんですが、そのバランス感覚がいいっていうか。


●まとまらないけどまとめる
瑣末な感想とかいっっっっっぱいあるんですよ!

サバの骨とか! 主題歌の荒井由実ひこうき雲』の歌詞のマッチングさとか!
主人公・堀越二郎と友人・本庄との 腐女子が好きそうな 友情関係とか!
あっ上司の黒川って声・西村雅彦だったのかよ!とか 
関東大震災のシーンは3・11を否応なく思わせて気持ちが暗くなるんだけど!とか
でもなんかこれは2011年に、東日本大震災以前にコンテが切られていたらしいとか。
ネット上の感想で「宮崎駿の自己陶酔言い訳映画である」という批判に対するドン引きさや
それに対する異議とか。
まだ色々書き足りないことがあるんです。

あと瑣末じゃなくて割と映画そのもののテーマにも絡んでくるんですけど
宮崎駿厭戦感というか非戦主義的なところというか
それでいて軍オタだから兵器はスゲー描きたくて描いてて楽しくてたまらない感じとか
(鈴木Pは「その思想の矛盾に決着をつけなさい」とけしかけたらしいけど)
そこに鋭く切り込んで行ったり
紅の豚』に通じる、飛行機乗りが死んだらたどり着く「夢」の空間とかを絡ませて
深くダラダラ楽しみながら考察していきたいんだけれど…

だけどそういうことを書いていたらいつまでも終わらなくなるので
ここで終わっておきます。
体力と誌面も尽きてきた。

●というわけでまとめ。
宮崎駿がたっぷり自己投影したであろう主人公・堀越二郎
声優がドシロウトの庵野秀明なのは賛否あるだろうけど
宮崎駿庵野両名のバックグラウンドと主人公の人間性を思えば
このキャスティングは一理あるというか、意を含んだものであるというか、
有意趣である(中国語で「面白い」の意)。

ひたむきに夢を追う青年・堀越二郎の姿と
ひたすら純粋でけがれなき少女であるヒロイン・菜穂子の恋は悲しく、美しく、胸を打つ。

この映画に描かれている夢も恋も、ねー、美しいですよ。

感動できるし、宮崎アニメのイキイキした動きは健在で
贅沢にモブたちが動きまくるモブ祭りなシーンはジブリ映画ならではで見る価値があります。
やっぱり最後のゼロ戦が飛ぶシーンは短いとはいえきれいで、必見ですね。

リアルに、幻想的に、時にマンガに
. 全体には美しい映画をつくろうと思う。」


監督自身の「映像についての覚書」でこうあるのですが
正にそのような映画だったと思います。

これは宮崎駿監督の遺作かもしれないなあ。
なんて思ったり。

暇とタイミングがあえばもう1回くらい劇場で見ておきたい。

おわり。