明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

映画『この世界の片隅に』感想 ボロ泣き!

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画像は2016/11/12から公開中の映画『この世界の片隅に』公式サイトトップページ。
見てきたのであらすじと感想を書きとどめておきます。

先に結論を書いておくと、あのねえ、観られる人は観たほうがいい! メチャクチャ…メチャクチャ良いから!!

●あらすじ

主人公のすずさん(CV.のん)は、広島県広島市生まれのノリ漁師の娘さん。
小学生の頃から絵を描くことが好きで、いつも鉛筆が持てなくなるほどちびるまで、好きな絵を描いて、妹に見せたりしている。
暮らしは裕福でないけれど、父、母、いつも怒ってゲンコツを振るう怖いお兄ちゃん(“鬼”イチャン)、そして妹の5人家族で暮らしていた。

18歳になったとき、縁談が降って湧き、断る理由もなかったので、呉市の家に嫁いでいく。
嫁ぎ先は、義父も旦那も呉の海軍工廠に勤めていて、家だけでなく、呉市はまるで街全体が海軍に勤めているかのようだった。
戦時中のことなれば、甘い新婚生活なんて夢のまた夢。それでもすずは、優しくしてくれる旦那の周平(CV.細谷佳正)と仲睦まじく、性格のキツイ義姉とは少しギクシャクしながらもカワイイ姪っ子とは仲良くなり、戦火のもと、日々を明るく笑って暮らしていく。

戦争は激化し、呉にも空襲が訪れ、すずと北條家、そして姪の晴美にも被害が及ぶ……。



●感想

あばば!

あばばばばばばば!

あばばばばばばばばばばば!!

あば……

う…

う……

うわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!

うわわわ~~~~~~~~~~~~~~ん! びえ~~~~~~~~ん!!! おぎゃあ~~~~~あん!!!

……っていうくらい泣いてしまいました。劇場で。
(泣き声だったのか)。

いやもう、号泣。号泣。
劇場のあちこちからもすすり泣く声が聞こえ、それにつられたわけでもないのですが、もう……。

涙がちょちょぎれますよ。

泣くのをガマンしていたのですが、自然と涙がこぼれること数度、鼻水が詰まって息ができなくなり口で呼吸すること数度、メガネを外してびちょびちょになった目の周りと頬を思い切りぬぐうこと2度。顔洗ったみたいに泣いてた。

いやだって、いやいやだって! いやだって!(575) 泣くでしょ! 泣くよ! 泣きますよこれ!!(下の句)

たしか、何年か前に原作漫画を読んだことがあるので、おおまかにどんな話かというのは知っていたはずなのです。戦争モノでね、ほんわかしてカワイイ主人公が、戦争被害に遭う……ということは大筋で把握していたのですが、それでも、だからこそ、平和な風景が描かれる映画の冒頭から、すずさんが、無邪気に学校に通ったり絵を描いたりするシーンから、「あっこの子がこの後……」と、勝手にじわっと涙が浮かんでしまいます。昭和20年の広島ですからね。日本人なら、その意味は、言わずとも、わかります。
(誤解なきように書いてしまいますと、主人公のすずさんは最後まで存命です]

そいで一番涙がほとばしったのが、それでも、辛い戦争を経験しても、夫婦がふたり、更地になった広島の橋の上で、未来を見据えるシーンが…あばばばばばば……。
涙と鼻水がとどまるところをしらない。

こう書くと、「なんだいなんだい、要するに、戦争で人が死んでカワイソウカワイソウって映画なのかい、ヘン! そんなベタなのねえ、いまどき流行りゃしないんだよ! 顔洗っておととい出直しなってんだい!」というハスッパな口調で思う方もいらっしゃるかと思います。大筋ではその通りなのですが、この映画をただ単純な「カアイソウカアイソウ」という映画に留めておかない、秀でた要素・要因がいくつかあると思いますので、それについて特に記しておきます。

●すずさんの声を演じたのんさん(旧名・能年玲奈さん)

本作が声優初挑戦というのんさん。これがメチャクチャ…イイ!のです。すずさんというのは、少し浮世離れしているというか、どこかヌケていて、その振る舞いで自然と周りを笑顔にしてしまうような天真爛漫さを持っているキャラクターです。それが、能年さんがぴったりで、いやもう、すごいんですよ。
ただ、なんどかある叫び声は、すこし能年さんの地が出過ぎているというか、生身の人間っぽすぎる感はなきにしもあらずなのですが、それはそれで、シーンに迫真さを加えていると、個人的には思います。
叫び声を上げるような緊迫したシーンですから、上手に“叫び声を上げる演技”より、ナマの“叫び声”のほうが、効果的になるということもあると思います)

でね、これはご存じの方も多いと思うのですが、のんさんっていうのは、事務所を独立して、テレビ・ラジオ業界的には思いっきり干されているんですね(現在進行系)。

< のん 独立問題は未解決で「事務所は認めていない」今後の仕事も白紙か - ライブドアニュース >

これによって、この映画にどういう影響があったかというと、「のんがテレビに露出できなかった」というのが大きいと思うんです。最近の映画でよくある、出演女優や男優が、大体出資しているテレビ局の番組に朝から晩まで連れ回され、ニュースや情報番組、バラエティーなどなんでもかんでも出ては告知、出ては告知するという流れがあるじゃないですか。でも、今回、それが上記のような理由で一切なかったんですよ!

それによって、(声優としての技量も乏しく、おそらくのんさんの地声に近い)特徴的なキャラクターの声を聞いても、生身の「のん」という人の顔や姿形が思い浮かびづらく、邪魔されないようになっていたと思います。

俳優・高倉健がテレビにあまり出なかったのは、昔ながらの役者の矜持で、「役者が、役ではない素の姿を見せることで、観客が作品世界に入りづらくなってしまうから…」という理由があったそうですが、今回、偶然にも、のんが干されていたことによって、この高倉健状態になっていたというわけです。

あのねえ、やっぱり役者はバラエティーとか出ないほうがいいわ!

絶対「のん」の実の姿を知ってしまっていたら、「すずさん」の声だと思えなくなってしまうもの! あまりにも素の声すぎて!  

事前に「のん」の姿をほとんど見なかったことで、安心して映画に集中することができました。実は、これは本当に紙一重だったと思います。声がそのままなので、映画の前にバラエティーとかで「のん」さんを見てしまっていたら、「ああ、バラエティー番組でケラケラ笑っていた人だ」って、簡単に脳裏に浮かんでしまって、作品が台無しになってしまうところだったですもの。

だから、干されていてありがとう! ヤクザの破門状みたいな怖いことをする業界でありがとう、テレビ局!

(正確には、テレビに関係のない雑誌メディアでは結構グラビアやインタビューが載っていたのですが、それは声が出ないから、映画には悪影響がなくセーフ)


●印象的にインサートされる手書き風演出

主人公のすずさんは絵が得意…ということで、映画の序盤から終盤まで、水彩画で描かれたような感じのシーンがときおり挟まれます。詳細はネタバレになるので避けますが、これが非常に効果的で、ときに美しく、ときに恐ろしく、映画の世界観を特徴づける演出となっています。

終盤の怖い感じ、ぜひ味わってほしいので、ぜひ劇場で観てください。

あと冒頭で流れる『悲しくやりきれない』や主題歌を歌うコトリンゴさんの歌声もきれいでかなしくて、よかったですねえ…。


●生活感に溢れるストーリーというか、生活のナマナマしさを描くストーリーというか、アニメらしくない物語

戦時中の生活、特に食生活なんかを丁寧に具体的に描くことで、画面やキャラクターにものすごく生活感が生まれています。だから、「はいはい、カワイソウカワイソウ」と突き放す目線にならず、「うおお…かわっ…かわいそうだよぉ…うえっ…うええん…あばばば…」という感想になるのです。(だから「あばば」って泣き声はなんだよ)

そしてある種の極限下での人間模様も非常にこの映画の「味」で、やはりいちばん印象に残るのは、幼なじみで海兵の水原(CV.小野大輔)が突然訪ねてくる例のシーン。旦那の周作は、馴れ馴れしくすずに接する水原に対し、「家に泊める訳にはいかない、納屋で寝てくれ」と言うが、「積もる話もあるだろう…」と、水原のいる納屋に、すずをやってしまう。

明日を知れない身である水原は、積年の本懐いざ遂げん、あの日あの時より惚れた女の一晩の、ただひと晩の逢瀬のために、なりふり構わず訪れた、納屋の2階のアンカの熱を、薄い布団に差し入れて、ふたりの足を差し入れて、人妻であるすずが隣に来たところ、愛しい人の肩を抱き、肩を抱き寄せ納屋の夜――。

納屋の夜ですよ!

(なんの都々逸なんだ)

で、その、納屋に自分の妻をやった旦那の周平の心境を慮ると、もちろん好きでやっているわけではなくNTR趣味ではなく)、実際にカラダを死地に持っていく水兵への内地勤務者の引け目だったり、自分の知らないすずさんを知っている幼馴染への嫉妬だったり、嫉妬と同じ量の、「俺がなかば無理やり嫁に連れてきたことを、すずは恨んでいるのではないか」という気後れだったり、これが今生の別れになる目算が高いと思えば、国のために死に行く男が、昔から好いた女に会いに来たと思えば、一度の逢瀬に目を瞑るのは、それは不倫ではなく、むしろ倫理的な行為ではないかと思っていたのではないかとか、一連のそれはそれで理解できなくもないけど、やっぱりひでえよ周作よ! と思ってしまうよな。

非常にこう、昭和の日本映画のような、濃密な人間ドラマが描かれているわけです。

そういったことが有機的に絡み合って、この映画の感動を、たんなる同情ではないものに昇華しているのではないかと思います。

そんで、この3つが実現できたのは、監督の強い熱意と、クラウドファンディングで4000万円近くが集まったというようなことと、偶然もありながらのことなので(能年さんのこととか)、これはもう、すごく、言ってしまうとありふれた表現になりますが、奇跡のような作品なのですよ、やっぱり

それにしてもクラウドファンディングで映画作ってこんないい映画ができるのって、スゲエなあ。
個人出資者のクレジットもエンドロールで流れて、むつ利之北道正幸といったマンガ家が目に入りました。おそらく気づかなかっただけで、業界人とかはいっぱいいたのだと思います。なんなら自分も出資したかったくらい。

●まとめ

感想をざっくりまとめると

先の大戦時に嫁いだ、すずさんという女性を主人公とし、戦時下の生活、夫婦の愛を描き出す映画。戦時中の生活様式が丁寧に描かれ、のん(能年玲奈)さんの自然な演技と相まって、単なる同情以上の感情が生まれ、強烈に揺さぶられる。それは監督の熱意や実力や、人間模様を描くストーリーが有機的に絡み合って生み出している感動で、これはもう、とてもいい映画です」。と、思います。

ひと言にすると、

メチャクチャ泣いた。あばばばば。



以上終わり。


●瑣末な感想

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本映画のキャラデザ・作画監督を務めた松原秀典さんは、富山県福光町(現南砺市)出身! 何年か前に高岡市美術館で行われた松原秀典特別展に行った記憶がありますね。富山出身者らしい実直な仕事がこの映画の土台を支えていたと言っても過言ではないでしょう。ないちゃ。

この映画を観て、改めて、方言っていいよね、と思いました。