明日はもうすこしマシにします

日記のブログです。ヤフーブログから引っ越したので過去記事には不具合があるかも(2019年10月)。見たり読んだりししたものや考えたりしたことを忘れないうちにメモっておこうというもの。ヤクルトファン。

『オブ・ザ・ベースボール』(円城塔・文春文庫)感想

イメージ 1

画像は円城塔の小説『オブ・ザ・ベースボール』。読んだので感想を書いておきます。

●あらすじ

主人公は何処ともしれない田舎町に住む青年(年齢は明示されてないけど多分青年)。この退屈な町には、一年に一度くらいのペースで空から人が降ってくる。主人公は野球のユニフォームとバットを身に着け、その降ってくる人を救助するレスキューチームの一員なのだ。救助すると言ってもクッションで受け止めたりするわけではなく、持っているバットで思い切り打ち返そうとしている。チームは当然9人いて、町のあちこちをぶらぶらし、日がな一日、空から人が降ってこないか待っている。降ってくる人を見つけるとすぐさま駆け寄り打ち返そうと試みているが、これまで誰も成功した者はいない。犬が退屈で死ぬほど暇なこの町で、主人公はとにかくバットを持って生きている…

●感想

いやあ、わけの分からない話でしたね!(笑)

むりやりジャンル分けするなら、何年も前に読んだカフカの『審判』のような不条理小説のひとつで、とにかくわけのわからない設定の中で、主人公はその世界に抗うことなくむしろ受け入れて、読者も「主人公がわけのわからないまま受け入れるならしょうがない、俺もそうするか…」と、わけのわからないまま受け入れて読み続けなければならないたぐいの小説だと思います。それでいて、作中に出てくる衒学的な(学術用語を駆使してけむに巻かれる感じがするという意味の)用語のラッシュは、SF小説的な味わいもあり、なんとなく椎名誠の『問題温泉』(だったはず)みたいな、不条理×SFという感じもあります。

なので簡単に言うと、割りと読者を選ぶ作品です。例えばこれを中学生に手渡して、読書の最初の一歩とするにはよくない。「本というのはなんだかわけのわからないものだなあ」と思われてしまう懸念があります。読書経験が割とたくさんあって、むしろ平凡な型にはまった作品に飽き飽きしている、小説の、文学の新しい地平を求めている人や、定番の起承転結でない展開にも、「珍しいね」と笑って許せるような人向けの作品だと思います。

ただ、表題の『オブ・ザ・ベースボール』に関しては、序盤中盤は作品の町と同じように、最高に退屈なのですが、主人公の近くに人が落ちてくるのを発見する終盤からは、これまでの退屈が嘘のような興奮を感じて、逆に、いい方向に裏切られるような快感もあります。それまでの展開が(主人公が感じているのと同じような)倦むような退屈さだったので、反面、いざ事件が起きると、胸がドキドキするような高揚とスピード感を覚えました。

なので、暇で、変な本が読みたいなあと思う人には、オススメっちゃあオススメできます。
(ただ、同収録の『つぎの著者に続く』は、より意味不明さが増していて、私には理解不能だったので、誰にオススメしていいのかわからず、オススメできません)

この「ワケがわからないけど空から人が落ちてくる」、そして「野球のユニフォームを着ている人がバットで打ち返そうと試みる」という設定は、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて(キャッチャーインザライ)』を踏まえたものなのかしら、と、読んでいて思いました。キャッチャーだし。落ちそうな人を助けたいと思っている人だし。

キャッチャーインザライのキャッチャーが取り損ねた人が、オブザベースボールの「町」に落ちてくる…。

なんてことなのかもしれないなあと思いつきましたが、ライ麦畑の方を読んだことがないので、この作品が本当にそれを念頭に置いて書かれたのかはなんともわかりません。なので読んでみなければならない。こうして作品を読んで何か別の作品に興味が湧いて、読書がつながって行くというのは、おもしろいことですね。

なんか、そんなふわっとした感じでおわり。